交渉というと、相手を論理で説得することに意識が向きがちだ。しかし実際には、相手が感じている懸念や葛藤を理解し、言葉にして返すことのほうが合意形成への近道になる。この考え方はタクティカル・エンパシー(戦術的共感)と呼ばれる。単に同情するのではなく、相手の立場を戦略的に理解し、交渉を有利に進めるための技術だ。
タクティカル・エンパシーの狙い
この手法の目的は、相手に「理解されている」と感じさせて警戒心を緩め、本音に近い情報を引き出すことにある。感情への配慮であると同時に、情報収集の手段でもある。
商談での実践方法
相手の懸念を先に言葉にする
「価格面で社内を説得するのが難しいのではないか」といったように、相手が言い出しにくい懸念をこちらから先に口にする。それだけで防御姿勢は和らぐ。
沈黙を効果的に使う
共感の言葉を伝えた後は、すぐに次の話題に移らない。3〜5秒程度あえて間を置くと、相手は本音を続けて話しやすくなる。
相手の言葉を要約して返す
相手が話した内容を自分の言葉で要約して返す。ミラーリングに近いこの手法は、理解されている実感を強める。
ポイント:タクティカル・エンパシーは相手に迎合することではない。理解を言葉にして返すことで交渉を前に進める技術だという点を見失わないようにしたい。
共感を示すことと、条件面で譲歩することは本来別の話だ。感情面での理解を示しつつ、条件は別途冷静に交渉する。この切り分けが求められる。
ラベリングという具体的な技法
タクティカル・エンパシーの実践方法の一つに、相手の感情や状況を「〜のように見えます」という形で言葉にして返す、ラベリングと呼ばれる技法がある。
- 「〜を懸念されているように見えます」と、断定を避けた形で相手の状態を言葉にする
- 相手が訂正や補足をしてきたら、それをそのまま受け止めて次の言葉につなげる
- 決めつけにならないよう、あくまで仮説として提示する姿勢を崩さない
断定的に決めつけると相手は反発しやすい。仮説として控えめに提示するからこそ、相手自身が言葉を継ぎ足しやすくなる。
商談後半での使い方
価格交渉が本格化する場面では、条件面の駆け引きに意識が向きがちだ。その前段で相手の懸念を言葉にしておけば、条件交渉そのものがスムーズに進みやすい。
よくある質問
Q. 相手の懸念が読めない場合はどうするか A. 断定的に決めつけず、仮説として控えめに言葉にし、相手の反応を見ながら修正していくのが望ましい。
Q. タクティカル・エンパシーは初対面の相手にも使えるか A. 関係の浅い相手には効果がやや限定的とされ、3回程度のやり取りを重ねるなかで効果を発揮しやすい。
Q. 共感的な態度と弱腰の違いはどこにあるか A. 共感は相手の立場理解であり、条件面での自社の立場を明確に保てているかどうかが両者を分ける境界線になる。
Q. ラベリングを多用しすぎるとどうなるか。 A. 不自然な繰り返しは白々しく感じられる。要所を絞って使うほうが効果的だ。
あわせて読みたい
商談やトーク設計のテーマで、続けて読まれている記事です。
商談・交渉・営業トークの記事は「トークスクリプトの作り方—ゼロから型を作る実践ステップ」に一覧でまとめています。アポ獲得や商談の一部を外部に任せる選択肢として、アポ獲得から商談代行まで対応するBtoB営業代行があります。