動機は、一つではない。同じ製品やサービスを導入する企業でも、その動機は驚くほど多様だ。表面上は「コスト削減のため」と語られていても、実際には社内稟議を通しやすくするためだったり、特定部署の負担を軽減するためだったりする。Jobs-to-be-Done(JTBD)は、顧客が日々の業務の中で片づけたい用事、すなわち「ジョブ」を解決するために製品を「雇って」いるのだと捉え直す考え方であり、口にされる建前の理由だけでは説明のつかない、一人ひとり事情の異なるこうした動機までも、営業の現場で一つの視点として捉えられるようにしてくれる。
JTBDの基本的な考え方
JTBDでは、顧客は製品そのものが欲しいのではなく、ある状況下で果たしたい進歩や解決したい用事のために製品を選ぶと捉える。製品は、手段にすぎない。同じ製品でも顧客ごとにジョブが異なれば、訴求すべきポイントも変わってくるという発想だ。
| 観点 | 従来の顧客理解 | JTBD的な捉え方 |
|---|---|---|
| 対象 | 属性・業種で分類 | 状況・ジョブで分類 |
| 問い | 何が欲しいか | 何を片づけたいか |
| 競合 | 同業他社の製品 | ジョブを満たす代替手段全般 |
ポイント:JTBDの競合は同業他社だけではない。社内で我慢して対応する、Excelで代替するなど「何もしない」も含めた選択肢と比較されている点を意識したい。
商談での活用方法
- 「なぜ今このタイミングで検討しているのか」を丁寧に聞く
- 過去にどんな代替手段を試し、なぜ不十分だったのかを確認する
- ジョブが明確になったら、提案の訴求軸をそのジョブに合わせて調整する
背景は、聞かないと見えない。こうした問いを重ねることで、価格や機能一覧だけでは見えない導入の背景が浮かび上がってくる。特に稟議を通す担当者と実際の利用者でジョブが異なる場合、双方に向けた説明を用意する必要が出てくる。
適用時の注意点
時間は、有限だ。JTBDはインタビューに時間がかかる手法であり、短時間の商談すべてに適用するのは現実的ではないかもしれない。重要度の高い商談やアップセルの機会に絞り込んだうえで、商談後半の10分程度を使って踏み込んで聞く運用のほうが、実務としては現実的だ。
ジョブの解像度を上げる質問例
聞き方ひとつで、答えは変わる。表面的な回答だけでは、真のジョブにたどり着けないことも多い。以下のような質問を重ねると、回答の解像度が上がる。
- 「今のやり方で困っている場面を具体的に教えてください」
- 「もし今のままだったら、半年後にどうなっていそうですか」
- 「この検討が社内で始まったきっかけは何でしたか」
| 質問の狙い | 得られやすい情報 |
|---|---|
| 現状の困りごとを具体化する | 表面的なニーズの背後にある事情 |
| 未来の状態を想像してもらう | 解決したい進歩の方向性 |
| 検討開始のきっかけを聞く | 意思決定の引き金となった出来事 |
こうした質問を組み合わせることで、単なる機能要望のヒアリングにとどまらない、価格表や仕様書だけでは決して見えてこない、顧客自身も言語化できていなかったジョブの背景まで踏み込んだ対話が、自然な流れの中でしやすくなる。
よくある質問
Q. JTBDのヒアリングはどのくらいの時間を要するか A. 案件の規模にもよるが、初回のヒアリングだけでは全体像を把握しきれないことが多く、2〜3回に分けて段階的に聞き込むケースが目立つ。
Q. ジョブが複数ある顧客にはどう対応するか A. 意思決定に最も影響するジョブを一つ特定し、それを軸に提案を組み立てる方が焦点が定まりやすい。
Q. JTBDと従来のペルソナ設計は併用できるか A. ペルソナで属性を、JTBDで動機を補う形の併用は一般的な運用だ。
Q. 社内共有する際の注意点は A. ジョブは顧客の発言そのままではなく、背景にある意図として言語化し直すと社内の共通理解が進みやすい。
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