感覚は甘い。期末が近づくと、「今期は着地しそうか」を感覚で語る営業会議は少なくない。担当者の主観に頼った見込みは、楽観と悲観のブレが大きく、経営判断の材料としては心もとない場合がある。過去の商談データをもとに着地点を統計的に推定する仕組み、いわゆる営業フォーキャスティングモデルが、この曖昧さを補う。

なぜ主観的な見込みだけでは足りないのか

担当者による自己申告の見込み(コミット)は、評価への影響を意識して保守的または楽観的に偏りやすい。人でぶれる。過去実績と照らし合わせると、同じ「確度80%」でも人によって実際の受注率が大きく異なることも珍しくない。データに基づくモデルは、この個人差を平準化し、組織全体としての着地予測を安定させる役割を持つ。

売上は「大口1社」より「小口の集合体」の方が読みやすい

フォーキャスティングの精度は案件構成のポートフォリオによって大きく左右され、実務上の感触としては、売上は1社あたりの受注額が大きい大口顧客に依存している状態よりも、比較的小さな金額の顧客が数多く集まっている状態の方が、はるかに予測しやすい。

これは実際に経験したことだが、それまでの売上の2割程度を占めるような超大手企業を受注できた瞬間、その年の目標達成はほぼ見えたと感じたのに、翌年、その企業が発注を出さないと分かった瞬間には、今度は逆に売上目標の未達成が確定してしまった。1社への依存度が高いと、その1社の意思決定一つで着地予測が大きく振れてしまう。裏を返せば、特定の大口顧客に売上の多くを頼っている状態は、たとえその顧客との関係が良好であっても常にリスクとして意識しておく必要がある。だからこそ、大口顧客の受注に安心してしまわず、常に新規営業のパイプラインを絶やさないことが、予測の安定性のためにも欠かせない。

具体的な設計方法

型は主に3つ。代表的なアプローチはいくつかあり、組み合わせて使われることも多い。

手法考え方向いている場面
ステージ別確率加重商談ステージごとの過去受注率を金額に乗じる商談数が一定量ある組織
担当者別補正個人の見込み精度の実績で補正をかける個人差が大きいチーム
時系列トレンド過去数期の着地推移から延長線上に予測商談データが薄い組織
  • ステージ定義とその通過率は定期的に見直す
  • 直近四半期の実績で確率係数を更新する
  • 大型案件は個別に確度を精査し、一律加重から外すことも検討する

ポイント:モデルの精度は「ステージ定義のぶれのなさ」に大きく左右される。定義が曖昧だと確率も意味を持たない。また、売上構成に占める大口案件の比率が高いほど、モデルの予測は外れやすくなる点も踏まえておきたい。

実践シーンとよくある失敗

定義のズレは、静かに効いてくる。BtoB SaaS企業で、商談ステージごとの確率加重モデルを導入したものの、「提案済み」ステージの定義が担当者によってバラバラだった例がある。ある担当者は見積書を送った時点で提案済みとし、別の担当者は口頭で概算金額を伝えただけで同じステージに入れていた。結果、同じステージなのに実際の受注率が担当者間で2倍近く異なり、加重平均で出した着地予測が実態と大きくずれてしまった。

よくある失敗パターンは、モデルを作った初期の確率係数を一度も更新せず、市況や商材構成が変わっているにもかかわらず、導入時の係数のまま予測を続けてしまうことだ。精度は徐々に低下していく。また、大型案件を一律の確率で扱ってしまい、実態と乖離した着地予測を経営会議に出してしまうケースも少なくない。特に、売上の大きな割合を単一の大口顧客に依存した状態のまま予測モデルを作ってしまうと、その顧客の状況が変わった途端にモデル全体の信頼性が崩れてしまう。

実践のコツはこうだ。

  • ステージの定義(何を満たしたら次のステージか)を全担当者が同じ言葉で説明できるか確認する
  • 四半期に一度は実績データと予測値の乖離を検証し、係数を更新する
  • 大型案件は加重平均から切り出し、個別に確度をヒアリングする運用にする
  • 特定の大口顧客への売上依存度を定期的に可視化し、依存が高まっている場合は新規開拓の比重を上げる
  • 予測値と現場の肌感覚が大きくずれた場合は、その理由を必ず言語化してから着地を決める

営業代行活用における応用

基準合わせが要る。営業代行が獲得したパイプラインを自社の予測モデルに組み込む際は、ステージの判定基準を事前にすり合わせておく必要がある。委託先と自社で「商談化」の定義がずれていると、確度加重の前提が崩れる。着地予測全体の信頼性を損ないかねない一方、新規開拓のパイプラインを継続的に積み上げておくことは、大口顧客への依存を薄め、予測の安定性を高めることにもつながる。

数字はあくまで参考値——モデルの限界

モデルは万能ではない。フォーキャスティングモデルは過去の傾向を前提とするため、市況の急変や大型商材の投入など非連続な変化には弱い。参考値として扱うにとどめよう。最終判断は、現場感覚との突き合わせが現実的だ。

よくある質問

Q. 予測はどのくらいの頻度で更新すべきか A. 週次更新が一般的だが、商談サイクルが短い商材ではより高頻度が望ましい場合もある。

Q. 予測の的中率はどの程度を目指すべきか A. 業種によるが、着地の上下10%程度に収まれば実務上は許容範囲になる。

Q. 新規事業など実績データが少ない場合はどうするか A. 類似事業のステージ別確率を仮置きし、実績が蓄積され次第補正する方法が現実的だ。

Q. 個人の見込みとモデルの予測が食い違ったらどちらを信じるべきか A. 乖離の理由を確認した上で、双方の根拠を突き合わせて着地点を決めるのが望ましい。

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